東京地方裁判所 平成10年(ワ)17178号 判決
原告 ビルディング不動産株式会社
右代表者代表取締役 佐々木泰樹
右訴訟代理人弁護士 岡内真哉
同 田中宏明
同 町田行人
同 伊藤茂昭
右訴訟復代理人弁護士 竹林俊二
被告 株式会社秀文社
右代表者代表取締役 碓井康仁
被告 碓井康仁
被告 碓井由利子
右三名訴訟代理人弁護士 梅園秀之
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して、金一四二四万一一六九円及び、うち金二〇万六六四〇円に対する平成九年一〇月二五日から支払済みまで年六分の割合による、うち金七〇万一七一三円に対する平成一〇年一月一日から支払済みまで年六分の割合による、うち金一一九万五二七〇円に対する平成一一年一月三〇日から支払済みまで年二割九分二厘の割合による、うち金一二一三万七五六四円に対する平成一一年一月三〇日から支払済みまで年六分の割合による、各金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、連帯して、金一四三二万九六一九円及び、うち金二〇万六六四〇円に対する平成九年一〇月二五日から支払済みまで年六分の割合による、うち金七〇万一七一三円に対する平成一〇年一月一日から支払済みまで年六分の割合による、うち金一二八万三七二〇円に対する平成一一年一月三〇日から支払済みまで年二割九分二厘の割合による、うち金一二一三万七五四六円に対する平成一一年一月三〇日から支払済みまで年六分の割合による、各金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、別紙物件目録記載一、二の各建物(以下、同目録記載の番号に応じて「本件建物一」、「本件建物二」という。)をそれぞれ被告株式会社秀文社(以下「被告会社」という。)に対して賃貸していた原告が、賃借人である被告会社並びに被告会社の右各賃貸借に伴う債務について連帯保証した被告碓井康仁及び被告碓井由利子に対し、右各賃貸借契約に基づく更新料、賃料・管理費・付加使用料、原状回復費用、違約金及び賃貸借終了後の使用損害金並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
二 争いのない事実等
1 原告は、被告会社に対し、平成七年四月二〇日、別紙契約目録記載一の約定で、本件建物六階部分を賃貸した(以下「本件契約一」という。)。
2 原告は、被告会社に対し、平成七年八月一一日、別紙契約目録記載二の約定で、本件建物五階部分を賃貸した(以下「本件契約二」という。)。
3 被告碓井康仁及び被告碓井由利子は、原告に対し、前記各賃貸借契約締結日に、被告会社が原告に対して本件契約一及び二に基づき負担する債務を連帯して保証した。
4 本件建物一に関する未払いの賃料・管理費・付加使用料(以下「賃料等」という。)及び保証金残金
(一) 被告会社は、本件契約一の期間満了日である平成九年四月二〇日経過後も本件建物六階部分の使用を継続し、本件契約一は、期間満了日の翌日である平成九年四月二一日に更新され、被告会社は原告に対し二六万二五〇二円の更新料を支払うべき義務を負った。
(二) 被告会社は、原告に対し、平成九年四月二二日、本件契約一について、解約通知書を提出して六ケ月後の解約の申し入れをした。
(三) 被告会社の原告に対する本件契約一に基づく末払賃料等として、平成九年六月から同年九月までの四ヶ月分として、賃料一〇五万〇〇〇八円、管理費八〇万二九四四円、付加使用料二六万六三〇七円の合計二一一万九二五九円があり、更に、同年一〇月分については、少なくとも二一日分の賃料一七万七八二四及び管理費一三万五九八二の合計三一万三八〇六円(総合計二四三万三〇六五円)があった。
(四) 原告は、被告会社の要請で設置した増設電源について、被告会社の発注で撤去工事を実施した。右工事は平成九年一〇月二四日に完了し、二〇万六六四〇円の費用を要した(甲第八号証)。
(五) 被告会社は、原告に対し、本件契約一に基づく保証金として二四五万一〇〇〇円を預託し、約定の償却金五一万五〇〇四円を控除した残額は一九三万五九九六円である。
5 本件建物二に関する未払いの賃料等及び保証金残金
(一) 被告会社は、平成一〇年三月分以降の賃料等の支払をしなかった。
(二) 被告会社は、原告に対し、本件契約二に基づく保証金として二八四万二〇〇〇円を預託し、約定の償却金五九万七一六〇円を控除した残額は二二四万四八四〇円である。
6 被告会社は、原告に対し、以下の金員をそれぞれ支払った。
(一) 平成九年九月一日九三万五六一八円
(二) 平成九年一〇月一五日一四〇万三四二九円、同年一二月五日七〇万一七一三円
(三) 平成一〇年六月五日、本件建物二の未払賃料等として三〇万円
三 争点
1 争点は、本件建物一及び二に関し、<1>原状回復費用の支払義務の有無及び額、本件建物一に関し、<2>平成一〇年一〇月分の賃料等の額、<3>未払債務についての支払額、<4>被告会社の原告に対する清算金支払請求権の有無及び額、本件建物二に関し、<5>未払賃料についての支払猶予の有無、<6>本件契約二の終了・明渡時期、<7>更新料支払義務の有無、<8>付加使用料の額、である。
2 主要な争点に関する当事者の主張
(一) 原状回復費用の支払義務の有無及び額
(原告の主張)
(1) 特約
本件契約一、二の各八条により、被告会社は、本件建物一、二の経年劣化に関わらず、引渡し当時の原状に復したうえで原告に引き渡すこと、被告会社がその指示をしない場合には原告が被告会社の費用負担で工事をなしうることに合意した。
本件建物二については、経年劣化による汚損等の原状回復の必要があり、原告は、被告会社に代わってこれを実施し、三三二万八五〇〇円の費用を要した。
(2) 合意
本件建物一については、経年劣化による汚損についての原状回復を含め、二七八万二五〇〇円(消費税込)が必要であったが、原告と被告会社は、原状回復費用として被告会社が二五七万二五〇〇円の支払をすることに合意した。
(被告らの主張)
(1) 被告会社は、本件建物一について、増設電源撤去工事を除き、平成九年一〇月二一日までに、本件建物二については、平成一〇年八月三一日までに、それぞれ原状に回復したうえ明渡しを完了した。本件建物一及び二について破損・汚損箇所はなく、増設電源撤去工事を除いた原状回復費用は発生していない。
原状回復費用が発生するのは、被告会社が善意の管理者としての注意義務を果たさず、かつ原告の承諾を得ずに原状を変更した場合であって、しかも被告会社が原状に復しない場合には、被告会社が善意の管理者としての注意義務を怠った範囲内において原告において行うことができるとする範囲においてである。但し、この場合でも、原告は、信義則上、被告会社に代わりできる限り安価な工事方法並びに工事業者を選定し、被告会社の了解を得る義務がある。
(2) 合意は否認する。
(二) 未払賃料等についての支払猶予の有無
(原告の主張)
原告は、被告会社に対し、平成一〇年六月四日、同年三月ないし五月分の賃料の支払いを三営業日以内にするよう催告するとともに、期限内に右支払いをしないときには、本件賃貸借契約二を解除するとの意思表示をした。被告会社は、原告会社に対し、同年六月五日に三〇万円の支払をしたが、その余の滞納賃料等を支払わなかったので、本件契約二は、右三営業日の満了日である同年六月九日の経過により解除された。
原告は、被告会社に対し、右解除後直ちに本件建物二を原状に復した上で明け渡すよう求めたが、被告会社が、原状回復のうえ明け渡したのは、同年九月三〇日であった。
この間、約定に基づき、一ヶ月当たり月額賃料・管理費の倍額である金一〇七万四二七四円(合計金三九七万四八一三円)の損害金及び付加使用料合計五八万九三六六円並びに月額賃料・管理費の合計額の九ヶ月分の違約金四八三万四二三三円が発生した。
(被告らの主張)
被告会社は、原告に対し、平成一〇年二月二七日、本件契約二を同年八月三一日限り解約する旨通知するとともに、右通知の日ころ、本件建物二の三月分以降の賃料等については明渡時に保証金と相殺のうえ清算する旨の合意をして支払の猶予を得ており、また、契約期間内である同年八月三一日限りで本件建物二を原状に復した上で明け渡した。したがって、原告のした解除は無効であり、被告会社には約定損害金・違約金を支払うべき債務不履行はない。
第三争点に対する判断
一 原状回復費用の支払義務の有無及び額(本件建物一、二)
1 本件建物二(五階部分)について
甲第三号証、第一七号証、第二〇号証の一ないし八、第二七号証、証人池田明美、同鈴木力の各証言及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は本件建物二を事務所として使用し、その使用期間は平成七年八月一七日から同一〇年九月中頃までの三年強であったこと、使用開始にあたり、被告会社が間仕切り(パーテーション)やコンピュータの配線設備等を設置しており、その撤去に伴い、天井や床の張り替えが必要となること、また、被告会社の退去時には、空調機や冷蔵庫等の使用に伴う天井及び壁の汚損があり、更に、床にも相当範囲の汚損があったこと、原告は、被告会社に対し、原状回復に総額三三二万八五〇〇円の費用を要する旨の工事受注予定会社作成の見積書(甲第一七号証)を送付したが、被告会社は、同年九月中頃までに本件建物二から退去したのみであったため、原告が右見積書記載の工事を発注・実施したこと、本件契約二には、原状回復工事の方法ないし範囲については左記内容の特約があることが認められるところ、以上の事実に基づき、右特約による原状回復の範囲と甲第一七号証記載の工事内容を対比すると、右甲第一七号証記載の工事は、特約に基づく原状回復として必要なものと認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない(被告兼被告会社代表者碓井康仁本人尋問の結果によれば、被告会社は、本件建物二を禁煙としていたことが認められるが、そのような事実があったとしても右認定を覆すに足りない。)。
記
(一) 期間の満了、解約、解除により本契約が終了する場合は、償却費にかかわらず被告会社の費用負担にて、原告もしくは原告の指定業者が直ちに物件を賃借開始当時の原状に復した上で、物件を被告会社より原告に引き渡し、且つ原告より預かっている物件の鍵を返還し契約を終了するものとする。尚、原状回復の仕様範囲は付則1を最低限とし、それ以外については原告の判断によるものとする。
(二) 被告会社が右の義務を怠った場合、被告会社の費用負担で原告がこれを代行する。
(三) 付則1・被告会社の原状回復について
原状回復の施工業者は原告又は原告の指定業者とし、明け渡し日まで工事を完了させるものとする。
床 Pタイル、巾木、及びカーペットタイル等の破損・汚損箇所の張り替え。補修後の洗浄
壁 破損・汚損箇所等の補修(塗装又はクロスの貼り替え)
天井 破損個所等の補修但し補修不可能の場合、当該箇所の貼り替え
扉 破損・汚損箇所等の補修及び汚損箇所の清掃
硝子等 破損・汚損箇所がある場合は交換及び清掃
電球・蛍光灯 全数交換(器具は含まない)
換気扇 破損個所等の補修及び清掃
ブラインド 破損・汚損箇所の補修及び清掃(被告会社が設置の場合は撤去)
空調機(室内機) フィルター清掃、吹出口清掃
鍵及びカード 当箇所全部交換(被告会社が紛失した時のみ)
パーテーション 破損・汚損箇所の補修及び清掃(被告会社が設置の場合は撤去)
トイレ・湯沸・バルコニー 破損個所の補修及び清掃(但し、トイレ・湯沸が専用室内に設置の場合のみ)
表示板 名称の消し込み(被告会社が設置の場合は撤去)
右以外の箇所及び、細部についても清掃及び補修が基本となり、補修不可能な場合については新品と交換とする。
2 本件建物一(六階部分)について
(一) 甲九号証、第一三ないし第一五号証、第二二ないし第二四号証、第二七、第二八号証、弁論の全趣旨によれば、原告と被告会社は、本件建物一に関し、平成九年四月末ころから契約の終了に向けた協議を始め、原状回復の範囲・費用については、原告から被告会社に対し、平成九年六月一六日付見積書を示して総額二七八万二五〇〇円の工事内容と金額を提案したが、被告会社は、原告に対し、同年七月三日、工事代金一四七万六〇〇円以内とするとの減額提案をして交渉を重ねたこと、その結果、原告は、被告会社に対し、原状回復費用を二五七万二五〇〇円に減額したうえ、これに本件建物一にかかわるその他の未払分を加算した合計三一三万七四三九円の解約清算金請求書を送付したところ、被告会社は、平成九年七月二九日、右金額を前提に、これを四回の分割払とする支払方法の提案をし、更に協議を重ねていたこと、その結果、原告は、右同額の原状回復費用があることを前提とする覚書(甲第九号証)を作成したうえ被告会社に送付し、被告会社は、同年九月一〇日に右同額の費用を前提とする原状回復工事の発注書を原告に送付するとともに、右覚書の内容に沿った支払を開始した(右覚書では、右同額の原状回復費用のほか、本件建物の未払債務が更新料二六万二五〇二円、賃料一二三万六二九九円、付加使用料二六万六三〇七円であること(いずれも本訴請求金額と同じ)を前提に、預託保証金二四五万一〇〇〇円から約定償却分五一万五〇〇四円を控除した残額一九三万五九九六円及び平成九年九月一日に支払われた九三万五六一八円の一部五四万〇一五八円を右未払額から控除した残額二八〇万六八五五円が右同日現在の本件建物一にかかわる被告会社の未払債務であることを確認したうえ、右の金員を、同年一〇月一五日に一四〇万三四二九円、同年一一月三〇日と同年一二月三一日に各七〇万一七一三円を支払うこととされ、被告は、同年一〇月一五日に一四〇万三四二九円を、同年一二月五日に七〇万一七一三円を、それぞれ支払っている)ことが認められ、右の事実に、本件建物一に関する未払債務の額及び支払方法については被告会社の同意があり、公正証書の作成を要求した点で右の覚書に対する被告会社の押印・返送を受けられなかったとする証人鈴木力の証言を考慮すると、原告と被告会社の間では、平成九年九月ころまでには、本件建物一の原状回復費用が二五七万二五〇〇円であることを含め、少なくとも本件建物一の未払債務の額及びその支払期日については右覚書の内容に沿う合意が成立したものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
3 ところで、被告らは、原状回復の範囲・方法につき、賃借人が善良な管理者の注意義務を怠った範囲等に限定され、工事方法・工事業者等についても予め賃借人の了解を得る必要があるなどと主張するが、前記1、2に認定の特約ないし合意にもかかわらず被告ら主張のように解すべき事情は認められない(本件賃貸借契約一及び二の条項第八条で、被告会社は、償却費にかかわらず原状回復費用を負担することとされているが、右の償却費は解約時賃料の二か月分相当額(各賃貸借契約の定める保証金の二割程度、一ヶ月分の賃料管理費合計額を僅かに上回る程度)であって特に過大とは認められず、本件において右償却費の外に前記の原状回復費用の請求をすることが不当であるとまではいえない。)
二 本件建物一の平成九年一〇月分の賃料等の額
被告らは、平成九年四月二二日以前から本件契約一の解約を申し入れていた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。また、被告会社が原告に対し、平成九年四月二二日に本件契約一について六ヶ月後の解約の申入れをしたことは当事者間に争いがなく、右の事実によれば、本件契約一は平成一〇年一〇月二二日までは継続していたというべきであるから、被告会社は、明渡し時期のいかんを問わず、右契約期間中の約定の賃料等として、平成一〇年一〇月二二日までの賃料一二三万六二九九円及び管理費九四万五四〇一円の支払義務があったものというべきである。
三 本件建物一に関する未払債務についての支払額
平成九年九月一日に支払われた金員の全額が本件建物一にかかわる被告会社の未払債務の支払に充てられたとの被告ら主張の事実を認めるに足りる証拠はない(前記一2で認定した事実からすれば、平成九年九月一日以降同年一二月五日までに支払われた金員のうち、本件建物一に関する未払債務の支払に充てられたのは、同年九月一日支払分のうち五四万〇一五八円及びその他の支払分の全額であると認められる。)。
四 被告会社の原告に対する清算金支払請求権の有無及び額
前記一2で認定した事実及び争いがない事実からすれば、本件建物一にかかわる被告会社の未払債務は、更新料二六万二五〇二円、賃料一二三万六二九九円、管理費九四万五四〇一円、付加使用料二六万六三〇七円、原状回復費用二五七万二五〇〇円の合計五二八万三〇〇九円があり、その後に支払われた合計二六四万五三〇〇円を控除した残額は二六三万七七〇九円であるから、被告会社の保証金返還請求権(一九三万五九九六円)を控除しても、被告会社にはなお七〇万一七一三円の未払債務があり、更に、本件建物一に関する増設電源設備撤去費用として二〇万六六四〇円の未払債務があるというべきであり、被告会社の原告に対する清算金支払請求権は認められない。
五 未払賃料等についての支払猶予の有無及び明渡時期
1 支払猶予の有無
(一) 被告らは、平成一〇年二月二七日ころ、原告から本件建物二の賃料等の支払について期限の猶予を得て、明渡し時に保証金と相殺して清算することに合意した旨主張し、これに沿うかのような証拠としては被告兼被告会社代表者碓氷康仁の供述がある。
(二) しかし、右碓氷康仁の供述は曖昧であるばかりでなく、証人鈴木力は、右のような申し入れはあったものの原告がこれを承諾した事実はない旨証言し、また、甲第三号証、第二七号証によれば、被告会社は、本件建物一についての賃料等については既に平成九年六月分以降の支払を遅滞し、右建物についての解約清算(特に原状回復の内容等)に向けた話し合いがもたれており、原告は被告会社の支払能力に疑問をもっていたこと、本件契約二では、契約継続中に保証金返還請求権を自動債権とする相殺を認めていないこと、被告会社は、被告ら主張にかかる明渡時以前の平成一〇年六月五日に、原告の請求に応じて格別の異議を止めることなく一部三〇万円の支払をしていることが認められ、以上の事実に前記鈴木力の証言を考慮すると、前記碓井康仁の供述は採用できず、他に被告ら主張の事実を認めるに足りる証拠はない。
(三) したがって、被告会社が原告に対し、平成一〇年二月二七日に、本件契約二を同年八月三一日限り解約する旨通知したことは当事者間に争いがないとしても、被告会社は賃料等についての支払期限を徒過しているというべきであるから、これを理由とする解除が妨げられることはない。そして、甲第五号証によれば、原告は、被告会社に対し、平成一〇年六月四日に、同年三月ないし五月分の賃料の支払を三営業日以内にするよう催告するとともに、期限内に右支払いをしないときには、本件と賃貸借契約二を解除するとの意思表示をしたことが認められるから、本件契約二は右三営業日の満了日である同年六月九日の経過により終了したものというべきである。
2 明渡しの時期
被告会社が平成一〇年六月一〇日以降も本件建物二の明渡しをしなかったことは争いがなく、また、前記一1で認定のとおり、被告会社は、同年九月中頃までには本件建物二を単に退去したものの、約定の原状回復義務を履行せず、また、原告に対し原状回復の具体的な指示をしなかったので、原告は、被告会社退去後、被告の費用負担で原状回復工事を行い、同年九月三〇日ころに同工事を完了したことが認められる。
3 そして、本件契約二の契約条項には、被告会社の賃料等の不払により解除された場合には、賃料・管理費の合計額の九ヶ月分を違約金として支払うべきこと、また、被告会社が単に建物から退去したのみで原状回復義務を履行していない場合には、その間の約定損害金を支払うべきものとの特約条項があることは当事者間に争いがない。
4 以上によれば、被告会社は、原告に対し、約定違約金として四八三万四二三三円、約定損害賠償として、平成一〇年六月一〇日から同年九月三〇日までの間につき賃料・管理費の倍額三九七万四八一三円及び後記七認定の付加使用料(ただし、損害賠償としては平成一〇年六月一〇日以降の分)を支払うべき義務があったというべきである。
六 更新料
被告らは、本件契約二の条項には、更新料を支払わずに更新された場合にも更新料を請求できるとの規定はないと主張するが、合意更新が成立しない場合には借地借家法上の法定更新が成立し、賃貸借は賃貸借期間満了後も継続されるという点では法定更新も合意更新も異なるところはなく、法定更新された場合には賃借人は更新料の支払いを免れるとすると賃貸人との公平を害するおそれがあることなどを考慮すると、法定更新の場合にも更新料を定めた右条項の適用はあり、被告会社はその支払義務を免れないと解するのが相当である。したがって、被告会社は、本件契約二に基づき、期間満了日の翌日以降の約定賃料一ヶ月分相当額三〇万四三七八円(二八万九八八四円×一・〇五)の支払義務があったというべきである。
七 付加使用料の額
1 平成一〇年三月一一日以降同年九月三〇日までの使用期間(検針期間)の付加使用料(消費税込)の額について、使用期間が同年三月一一日から同年四月一〇日までの分(四月末期日)が一〇万二六六三円であることは争いがなく、甲第一六号証によれば、その後の付加使用料は以下のとおりであることが認められる。
(一) 使用期間同年四月一一日から翌五月一〇日まで 九万〇七七九円
(二) 使用期間同年五月一一日から翌六月一〇日まで 八万八八九九円
(三) 使用期間同年六月一一日から翌七月一〇日まで 九万八四三四円
(四) 使用期間同年七月一一日から翌八月一〇日まで 八万八二二七円
(五) 使用期間同年八月一一日から翌九月一〇日まで 八万九七八一円
(六) 使用期間同年九月一一日から翌一〇月一〇日まで 六万三〇四五円
2 右の付加使用料の額のうちの(六)について、被告会社の明渡時期である平成一〇年九月三〇日までの二〇日分としては、これを日割りした額である四万二〇三〇円と認めるのが相当である。
3 以上によれば、検針期間が平成一〇年四月一一日以降同年九月三〇日までの付加使用料の合計は四九万八一五〇円であり、これに甲第一三号証記載の平成一〇年三月一一日から翌四月一〇日までの付加使用料九万一二一六円を加えると原告請求の金額五八万九三六六円となるが、右期間(平成一〇年三月一一日から同年四月一〇日までの分)の付加使用料が一〇万二六六三円であることは当事者間に争いがなく、原告は右の金員については、平成一〇年五月請求分の賃料として別個に計上しているから、その限度で重複することとなり、右の約定賃料等としての金員の他に付加使用料の請求として理由があるのは、使用期間平成一〇年四月一一日以降の分である四九万八一五〇円となる(ただし、平成一〇年六月九日までの分は契約継続期間中の約定付加使用料であり、同年六月一〇日以降の分は契約終了後の約定損害金である。)。
したがって、原告の付加使用料の請求は、右の九万一二一六円及びこれに対する遅延損害金(平成一〇年一〇月一日から平成一一年一月二九日までの分としては八八三〇円)の支払を求める部分は理由がない。
八 以上によれば、被告会社は、平成一一年一月二九日当時、原告に対し、本件建物二に関する未払債務(及び各支払期限から平成一一年一月二九日までの遅延損害金)として、更新料三〇万四三七八円(二万六五六八円)、平成一〇年三月分賃料等三四万五七九六円(九万二六七三円)、同年四月分賃料等六五万〇七四二円(一五万八二六〇円)、同年五月分賃料等六三万九八〇〇円(一四万〇二四四円)、同年六月分賃料・管理費一六万一一四一円(三万一三二五円)、平成一〇年四月一一日以降の付加使用料四九万八一五〇円(四万八二二〇円)、使用相当損害金三九七四万八一三円(七万九〇六〇円)、違約金四八三万四二三三円(一八万五九五二円)、原状回復費用三三二万八五〇〇円(六万六二〇五円)があり、本件建物二の保証金残金二二三万三二四四円を右の未払債務のうち前期の遅延損害金合計八二万八五〇七円、更新料、三月及び四月分賃料等、五月分賃料の一部(一〇万三八二一)に順次充当して控除しても、なお、五月分賃料等残金五三万五九七九円、六月分賃料・管理費一六万一一四一円、付加使用料四九万八一五〇円(以上合計一一九万五二七〇円)、使用相当損害金三九七万四八一三円、違約金四八三万四二三三円、原状回復費用三三二万八五〇〇円(以上合計一二一三万七五四六円)の未払があることとなる。
九 よって、原告の請求は、主文記載の限度で理由がある。
(裁判官 齋藤憲次)
物件目録
一 所在 文京区本郷六丁目八〇番地三
家屋番号 八〇番三
種類 事務所
構造 鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根一〇階建
床面積 一階 二七七・五二平方メートル
二階 二八九・三三平方メートル
三階 二二二・八三平方メートル
四階 一九七・七五平方メートル
五階 一七二・六三平方メートル
六階 一五二・四七平方メートル
七階 一五二・四七平方メートル
八階 一四二・五二平方メートル
九階 一四二・五二平方メートル
一〇階 一四二・五二平方メートル
但し、右建物の内、六階部分 一六二・〇五八平方メートル部分
二 所在 文京区本郷六丁目八〇番地三
家屋番号 八〇番三
種類 事務所
構造 鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根一〇階建
床面積 一階 二七七・五二平方メートル
二階 二八九・三三平方メートル
三階 二二二・八三平方メートル
四階 一九七・七五平方メートル
五階 一七二・六三平方メートル
六階 一五二・四七平方メートル
七階 一五二・四七平方メートル
八階 一四二・五二平方メートル
九階 一四二・五二平方メートル
一〇階 一四二・五二平方メートル
但し、右建物の内、五階部分 一八七・八八五平方メートル部分
以上
契約目録
一 本件契約一
1 期間 平成七年四月二一日から平成九年四月二〇日まで
2 賃料 一か月二五万〇〇〇二円
3 管理費 一か月一九万一一七八円
4 消費税 賃料について平成七年四月二一日から平成九年三月三一日まで月額七五〇〇円、平成九年四月一日から平成九年四月二〇日まで月額一万二五〇〇円、管理費について平成七年四月二一日から平成九年三月三一日まで月額五七三五円、平成九年四月一日から平成九年四月二〇日まで月額九五五八円
5 付加使用料 電気料金基本料分担金、専用部分電気料金、共用部分電気料金分担金及び上下水道料金分担金(以下「付加使用料」という。)は、被告会社は、原告の請求に応じて毎月末までに当該請求分を原告に支払う。
6 支払期間 毎月末までに翌月分を支払う。
7 遅延損害金 賃料、管理費及び付加使用料の支払を遅延した場合は、一〇〇円につき日歩八銭の割合による金員を支払う。
8 損害賠償義務 原告が、被告会社の違約に基づき解除権を行使し、契約の終了日を指定して本件建物の明け渡しを求めたにも拘わらず被告会社が明け渡さない場合には、被告会社は、契約終了の日の翌日から本件建物明け渡し完了に至るまで、一か月当たり、月額賃料及び管理費の倍額並びに付加使用料を支払う。
9 契約の解約 本件賃貸借契約の期間中においても、原告または被告会社は、六か月前までに相手方に対して解約通知書で契約終了日を通知することにより、解約することができる。
10 契約の更新 本契約の期間が満了する六か月前までに、原告または被告会社から格別の意思表示のない場合は、更新料を被告会社が原告に支払うことを条件に、本契約は二年間更新されるものとする。更新料は、本契約満了日の翌日以降の約定賃料の一か月相当額とし、その支払期日は本契約更新時までとする。
二 本件契約二
1 期間 平成七年八月一七日から平成九年八月一六日まで
2 賃料 一か月二八万九八八四円
3 管理費 一か月二二万一六七六円
4 消費税 賃料について平成七年八月一七日から平成九年三月三一日まで月額八六九六円、平成九年四月一日から平成九年八月一六日まで月額一万四四九四円、管理費について平成七年八月一七日から平成九年三月三一日まで月額六六五〇円、平成九年四月一日から平成九年八月一六日まで月額一万一〇八三円
5 付加使用料、支払期間、遅延損害金、損害賠償義務、契約の解約及び契約の更新については、本件賃貸借契約一の内容に同じ
以上